とある会社の営業のメルマガを受信しています。これはその中で秀逸だと思った文章の抜粋を掲載させてもらいます。人を育てるとはという観点で書かれていますが自身の成長に照らし合わせてみるとなるほどなと思います。自ら考えて行動できる人材を育てるための具体的な方策についてかなり深くかかれていると思います。以下抜粋させて頂きました。
人材成長(前編)
「人材がなかなか育たない」、「若手に仕事を任せられない」、「重要な役割をこなせる人材がごくわずかしかいない」、といった人材成長に対する課題を抱えるお客様が年々増えています。私がプロジェクトリーダーを勤めたお客様の数はこの2年間で7社になりますが、そのうちの5社が「プロジェクトを通じて人材も育ててほしい」という要望も含んだお客様でした。
入社当初から製造業を中心に効率化を実現するための業務プロセス改革やナレッジマネジメントといったコンサルティングサービスに取り組んできた私にとって、組織体制やプロセスといった"人"を取り巻くハード面での改革と、組織が積み重ねてきた暗黙知の形式知化は得意とする分野でしたが、"人そのものを成長させる "という取り組みは、大変興味深い、新しいチャレンジでした。
「なぜ、人材は育たなくなったのか」
まず、製造業を取り巻く環境の変化について理解しなければなりません。例えば1年間の開発機種数に関して見てみると、家電業界のあるお客様では20年ほど前は年間1機種程度の開発ボリュームであったのに対し、近年は年間に5~6機種開発しなければならなくなっています。機種の開発リードタイムも当時と比べて2分の1程度と劇的に短くなっています。年間の開発機種数の増加や開発リードタイムの短縮に対応するために、企業は分業化を推進してきました。また製品機能自体の複雑化傾向もこの分業化を加速させていきました。
では、以前の状態と分業化が進んだ今とでは何が違うのでしょうか。
以前は、ベテラン設計者は自分が構想設計のような難易度の高い業務を進める際に、経験の浅い若手設計者に対しても、あえて同じ構想設計を並行で実施させる、そういった意図的な"ムダ"を行うことができました。若手設計者は試行錯誤しながら、見よう見真似で構想設計を進めていきますが、その過程で当然のごとく失敗をする。しかしこの時代には失敗を許容できる時間の余裕がありました。若手設計者はこういった失敗を通じて自分の知識を経験知に変えることができたのです。
それに対して分業化の進んだ今の状態は、開発リードタイムが短く失敗は許されない状況の中で、製品開発全体を束ねる役割には実力のある限られたベテラン設計者が優先的に選ばれ、若手設計者の主たる仕事は分業化された各業務になります。効率よく業務を遂行すべく、ベテラン設計者は予め大枠の業務シナリオを準備し若手設計者へ与えます。若手設計者はベテランの用意したシナリオに沿って、整備された社内標準を使って設計を進めていくわけです。一見すると無駄のない合理的な開発の進め方ではありますが、若手設計者にとっては分業化によって、製品開発全体を体験する機会が少なくなってしまいました。
また、ベテラン設計者が作ったシナリオに沿った業務を行うが故に、狭い領域でしか物事を捉えられなくなってしまっています。こういった状態で効率化を最優先に考えた結果、社内標準の意味を考えずにただ使って業務をこなす、そういった仕事のやり方を自然と身に着けてしまいました。
「社員が考えなくなった」と言われることがありますが、その理由はここにあります。
社内の標準は存在するが、標準が生まれた意図や背景といった本質的な部分は伝承されずにきてしまっているのです。
ひと昔であれば実業務を通じてベテランが若手に対して時間をかけながら本質的な技術伝承を行っていましたが、時間に追われた結果、標準化という書面上でのうわべの技術伝承が主流となり、結果的に本質を見失った標準が組織に蔓延するようになってしまったのです。
上記のような観察から、人材が育たない要因をまとめると以下の3つに集約されます。
製品開発全体を体験するような機会の減少(機会を与えられていない)
与えられたシナリオ通りに作業をする環境(あまり自ら考えることをしない)
標準が生まれた意図や背景といった本質的な部分での技術伝承ができていない
求められる人材像とは
こうした課題が存在するのは事実ですが、かといって、以前のような開発機種数や開発リードタイムに戻れるかというとそうではありません。業務を効率化する上ではもはや分業化は避けられない状態です。
それどころか、多くの企業の経営者は「企業競争力をつけていくために開発機種数を今以上に増やしたい」、「開発リードタイムをさらに短くしたい」等、一層の開発力強化を望まれています。
このような環境で求められる人材とは、「全体を把握し、自ら考え、知識を実践的に応用できる人材」です。
限られた時間の中で、失敗はできない状態であったとしても、若手設計者に経験をさせ、知恵の本質を伝承し、製品開発の全体を任せられる人材に育てていかなければならない。
ではそういった人材をどうやって育てることができるのか?
私自身がA社の社内で行った活動や、お客様とともに挑戦した内容を通じて新しい人材成長のあり方を少しだけ紹介したいと思います。(次回に続く)
人材成長(後編)
前回は「なぜ、人材は育たなくなったのか」ということについて、私のこれまでの経験を踏まえて考えられる要因を以下のように3つ挙げました。
製品開発全体を体験するような機会の減少(機会を与えられていない)
与えられたシナリオ通りに作業をする環境(あまり自ら考えることをしない)
標準が生まれた意図や背景といった本質的な部分での技術伝承ができていない
また、これからの時代に求められる人材像としては「全体を把握し、自ら考え、知識を実践的に応用できる人材」が必要だということを書きました。
今回は、こういった人材を成長させるために私が行ってきた活動の中から幾つかのポイントをご紹介致します。
「知っている」と「応用できる」の違い
まず人材の成長を考える上で、知識を知っている状態と実践で応用できるということの違いを認識しなくてはなりません。上辺だけの知識をいくら積み上げても、実業務で応用することはできません。社内標準も、ただ「知っている」だけでは「応用できる」状態ではないのです。標準が生まれた背景や背後にある根拠を本質的に理解して初めて応用することができます。
「応用できる」状態を作り出すために、A社流の標準化では標準の生まれた根拠や背景を必ず記載しています。これは標準の本質的な理解を促進するとともに、標準そのもの進化にも大きく寄与します。
しかし、記載するだけでは人が成長する要素として不十分なことも分かってきました。例えすべての標準書に根拠が記載されていたとしても、読むか読まないか、理解しようとするかしないかは本人次第だからです。「応用できる」状態を頭の中に作り出すメカニズムを見つけ出し再現する必要があったわけです。
「知識を実践的に応用できる」状態について
では「応用できる」とはどういう状態なのでしょうか。
頭の中をイメージすると、「思考網が網の目のように張り巡らされており、それぞれの1本1本が太い状態」です。思考網が十分に発達しておらず隙間だらけの状態であった場合、何か重大な問題に直面した際に適切な一手を考え出すことはできません。また思考網が発達していたとしても、今にも切れてしまいそうな細い連係で繋がっていたとすれば、問題に対して迅速で的確な一手を引き出すことは難しいでしょう。
つまり、
網の目のように張り巡らされた思考網を持つこと
1本1本が太い思考網であること
という2つの状態を作り出すことが重要なのです。
「本質を深く考えること」、「共有すること」
ものごとの「本質を深く考えること」
1つ目の「網の目のように張り巡らされた思考網」を頭の中に築き上げていく上でのポイントは、ものごとの「本質を深く考えること」です。
「こういった問題が起きている、ああいった問題が起きている」という表面的な事象ではなく、その内にある本質的な要因とは何かを常に理解することが必要です。
なぜなぜ分析とはよく言ったものですが、より深く考えることによってようやく本質的な要因に辿り着くことができます。より深く考える過程で、頭の中では「こういう視点で考えてみよう」とか「こういう仮説はどうか」といった試行錯誤が繰り返されています。この試行錯誤そのものが脳の中の思考網を増やすことに繋がります。その結果辿り着いた本質的な要因は価値のあることですが、深く考え抜いた思考錯誤の過程そのものも価値があることなのです。
ベテランが歩んだ実務経験はまさに試行錯誤の結晶です。だからこそ頭の中でこの本質的な思考網のバリエーションを築き上げることができ、困難な問題にも迅速かつ的確に立ち向かうことができるのです。
「共有すること」
次に、2つ目の「1本1本が太い思考網」を頭に築き上げていく上でのポイントは、「共有すること」です。この結論に至った経緯を少し説明します。
実業務で培う経験がなぜ頭に残りやすいかを考えた時、決して無視することができない1つの要素が存在します。それは"感情"です。実業務を通じて生まれた成功体験や失敗事例の中には、「成功して嬉しかったという達成感」や「失敗したときの絶望感」といった"感情"が含まれています。この感情と紐づく形で、そのタイミングで得た知識が鮮明に頭の中に記憶されるのです。
「一般に強い感情と結びついて記憶されたイベントは後々まで記憶され続ける傾向がある」と脳科学の分野で言われていることと同じことです。
つまり、何かの知識を吸収する際に"感情"が同時に引き起こされるような状態を作り出すことができれば、知識を効果的に吸収、かつ後の人生で引き出しやすい形として脳に残すことができるということです。
次に考えたことは、この"感情"をいかに生み出すかでした。実業で得られるような達成感や絶望感をどう再現するかを考えた時、他の人の経験を感情とともに「対面的に共有すること」の重要性に気が付きました。今となっては出典がはっきりと思い出せませんが、成功体験や失敗事例の共有を組織的に実施することでサービス向上を実施した記事を思い出したことがきっかけです。
例えると、ある業務を通じて得た学びを単純にドキュメント化して展開するよりも、ドキュメント内には成功体験での達成感や失敗事例での絶望感など感情の要素を織り込みながら、face to face の場で共有することで、より効率よく実践的な知識を伝達することができるということです。対面的に行ったほうが良い理由は、文章には書くことが難しい、話し手の目線や表情、言葉の重み、などそういった要素すべてが"感情"を共有することの促進剤になるからです。
以上のことを踏まえ、「本質を深く考えること」、「共有すること」の2つを意識的に作り出せば、「知識を実践的に応用できる人材」を従来よりも早いスピードで成長させることができるのではないかと考えています。本質は何かと深く考え、それを他の人と共有する。共有することで得る新しい観点がまた知識の幅を広げる。その共有を通じて発生する感情が知識を定着させる効果を促進させる。「深く考え、共有する」ことが「知識を実践的に応用できる」状態を作り出す一番の方法ではないか。これがA社流の新しい人材成長のあり方なのです。
訓練の場を持つこと
社内では「本質を深く考えること」、「共有すること」という考えをもとに訓練の場を月に数回のペースで実施しています。限られた時間の中で「本質を深く考えること」、「共有すること」を行う必要があるため参加者は10名から20名程度、内容としては仕事に関係する旬な内容に関してテーマ設定をし、参加者に対して深く考える時間を与えてテーマに対しての本質的な要素を追求してもらい、最終的に見出した答えや、それに至る過程、背景などを共有する時間を設けてお互いが発表を行っています。
「本質を考えること」というものは、こういった訓練を繰返し行うことで習慣付けられて醸成されるものだと思っています。そして複数人で共有を行うことによって、より本質に辿り着き易くなります。「共有すること」のメリットはその点にもあります。なぜならば本質を深く考えるということは、その人の主観的な判断が非常に大きな影響力を持ってきます。1つの切り口から深く入ってしまうとなかなか違った切り口での考えを展開することができなくなってしまいます。他人とディスカッションをすることによって主観的ノイズが緩和され、複数の切り口のから本質を深く追求できるようになるのです。
最近、こうした「本質を深く考えること」「共有すること」の考え方をお客様の研修プログラムへ適用し、人材成長のプロジェクトを実施させていただきました。「構想設計ができる人材を育てたい」という要望に対して、研修プログラムとしては「製品全体の理解」、「構想設計プロセスの理解」、「構想設計の実践」という大きな構成で、合計12回を実施、その1回1回の中に「本質を深く考えること」「共有すること」を織り込み、受講者自らに考える時間と、受講者間での共有を行う研修プログラムを提供しました。
結果としては好評で、特に「共有すること」の重要性を理解していただきました。
こういったサービスは弊社としても始めたばかりですが、より良いサービスへと進化をさせていきたいと思っております。
最後に、もう1つの重要な要素「自発性」
最後になりますが、人材が成長するのに必要なもう1つの要素があると思っています。実はこれがもっとも重要な要素かも知れませんが、それは「自発性」です。
私が"人材育成"ではなく、"人材成長"と表現している意味も、実はここにあります。育成型で"育てられる"ではなく"自ら成長していく"、そういった人材成長のあり方を常に考えているからです。それを実現するには1人1人が「自発性」を持てるかどうかが一番重要です。どんなに良質な教育プログラムが存在しようと、どれだけ魅力的な業務が与えられようと、受け手側が吸収できる状態でないと、成長はしません。それには自発性が前提条件です。
この点については、先人による行動学分野の知見やファシリテーションといった要素も含めて、自分なりにアイディアを紡ぎ合わせながら、日々試行錯誤を繰り返しているところです。
いつしか、「自発性」を再現可能な形で促し、そして良質で、かつ実践的な人材成長の研修プログラムが提供できるようにこれからも深く考え続けたいと思います。